今後ますます経済成長が期待できるフィリピンでは、BPO企業をはじめとする海外資本の進出が進んでいます。もちろん日本からも人件費の安さなどを目当てに多くの企業が現地法人や支社という形態で進出しています。そこで今回はフィリピンで法人を設立する際の手順や費用、必要書類などを詳しく解説していきます。
目次
進出方法には四種類の形態がある
現地法人
支店
支店という業態とは、日本の本店を別にフィリピンに会社を立ち上げる方法です。会社の資本は本社と合算され、法的責任や債務もすべて日本のものが適用されます。
ネガティブリストに入っている業種は特定の条件を満たさない場合、事業展開することはできません。
フィリピンで支店を出せるのは銀行や保険会社などのみです。そのため現地法人と比べると自由度がやや低下します。
駐在員事務所
駐在員事務所では所得を得るような営業活動は禁止されています。そしてフィリピンの駐在員事務所では下記のような活動を許可されています。
・フィリピン国内の市場調査
・日本商品のPR活動
・本社の投資の機会促進
・日本との連絡業務
・情報収集
駐在員事務所では、そもそも法人格を持たず非営利活動のみを行います。また適用される法律は日本のものとなるため注意してください。
これら3種類の形態では、債務リスクや営業行為などの詳細は下記のようになります。
Global Employment Outsourcing(GEO)
新しい事業形態として欧米を中心に注目を集めているのが「Global Employment Outsourcing(GEO)」です。日本語では「雇用代行」といい、GEOサービス会社と契約し、フィリピン国内での事業を代行するというシステムです。
進出企業は現地の責任者を自ら選んで雇用し、そのGEOサービス提携会社の社員として働かせることができます。
この仕組みによって現地法人のような煩雑な手続きを経ず、駐在員事務所で出来ないような営業活動ができるようになります。
このように自社の事業にふさわしい人材を自ら選べるという点では、日本の派遣会社よりも一歩進んだ事業形態だと言えます。
外資規制リスト-ネガティブリスト-とは?
現地法人を設立する際には、「国内向け企業」か「輸出型企業」に分けられます。これは国内外の売上と下記の例にある「外資規制リスト(ネガティブリスト)」に掲載されている業種によって分類されています。
よってネガティブリストに該当する業種は、外資の出資比率が制限されることになります。また支店を出す場合もこちらの外資規制リストに該当する業種のであれば、特定の要件を満たさない限り事業を行えません。
そのネガティブリストは主にこのような業種に適用されます。
- 外資規制25%以下の業種・・・派遣事業・国防施設の建設関連
- 外資規制30%以下の業種・・・広告業
- 外資規制40%以下の業種・・・ラジオ通信・教育関係・天然資源開発・公益事業関連・農業・宇宙ロケット・ダイナマイト・貿易にかかわる業種
- 外資規制100%禁止の業種・・・新聞・テレビ・薬剤師等の専門職・保険会社・核兵器・その他危険が伴う業種
フィリピン会社設立の主な費用
最低払込資本金
フィリピン会社法では輸出型企業の払込資本金額は5,000ペソと決められていますが、実際は5,000ペソの払込資本金で認可されることは難しいようです。最低でも200,000PHP以上の資金が必要と考えましょう。
会社登録費用
1.商号確認書発行手数料
商号を予約した際に発行される商号確認書(有効期限30日)には100ペソの手数料がかかります。
2.証券取引委員会(SEC)登録手数料
証券取引委員会への登録には、それぞれ下記の金額が必要です。
- 登録料・・・(授権)資本額の1%×1/10に、20%を加えた金額
- 調査料・・・登録料の1%相当額
- 付属定款手数料・・・210ペソ
印紙税
外国人出資者・従業員のAEPビザ取得費用
- 一年間有効な初回のAEP申請料・・・9,000ペソ
- 有効期限が一年を超える際の一年ごとの申請料・・・4,000ペソ
- 有効期限更新の際の各年分の申請料・・・4,000ペソ
従業員の給与
- 大卒者に支払う給与の平均・・・25,000PHP~
- 一般の祝祭日や特別祝祭日の出勤・・・通常日給比の最大200%を支払う
- 賞与平均額・・・基本給の約2か月分
運営コスト
オフィス賃貸料
マカティやBGCエリアの平均オフィス賃料は月額、1㎡当たり約1,251ペソとなっています。エリアにもよりますがおおむね1,000~1,500ペソ(1㎡当たりの月額)を見ておきましょう。賃料に関しては以下のような費用も同時にかかります。
ただし店舗などのテナントを賃貸する際には仲介手数料は貸主負担という慣習があります。
また立地や店舗などの場合は人通りなどでも賃料相場は変動します。
法人税
フィリピンの現地法人では課税所得(総所得-控除額)に対して、最高30%の税率で計算されます。
その他諸経費
フィリピンで会社設立の手順と所要日数
それでは実際に順番を追って、フィリピンで会社を設立するための手順を見ていきましょう。フィリピンでは2015年の会社法改正により、所要期間は最短8日間と非常に短くなりましたが、手続きが順調に進むことは少なく平均でも1~3か月ほどの時間がかかるようです。
手続きに時間や手間をかけていられないという方は、当社で全て代行することが可能です。
主な会社設立の流れと、所要日数は下記の通りとなっています。
- 1.外資規制・優遇制度認可のための調査 ・・・ 2週間
- 会社形態の選択 ・・・ 1週間
- 会社名決定・予約手続き ・・・ 1日
- 登記住所確保のための事務所選び ・・・ 1週間
- 発起人・株保有割合の決定 ・・・ 1週間
- 定款・必要書類の作成 ・・・ 2週間
- TITF口座開設・資本金の払込 ・・・ 1週間
- 証券取引委員会への申請 ・・・ 1週間
- 法人口座の開設・資本金を移す ・・・ 数日
- バランガイ・地方自治体からの許可を得る ・・・ 2週間
- 各種税金に関する手続き ・・・ 1週間~1か月
それでは一項目ずつ詳しく見ていきましょう。
1.外資規制・優遇制度認可のための調査
またフィリピンに日系企業が進出する際の各種優遇制度についても事前に調べておきましょう。
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PEZA(Philippines Economic Zone Authority)
フィリピン貿易産業省(DTI)に属している機関。PEZAが定めた工業団地内に設立し、承認した事業を行う企業に対してインセンティブの付与が認められています。 -
BOI(Board of Investment)
フィリピン貿易産業省傘下の投資委員会のこと。条件を満たした企業の法人税を4~6年免除する優遇措置を与えています。また通関手続きの簡素化や各種税金の免除など様々なメリットがあります。
2.会社形態の選択
冒頭でご説明したフィリピンへの進出形態(現地法人・支店・駐在員事務所・GEO)をあらかじめ決めておきましょう。選ぶ会社形態によって、資本金の額や営業活動ができるかどうかが大きく変わってくるためです。
一般的に本格的な事業展開を考えている場合は、現地法人による進出を選びます。ただし現地法人や支店を設立するには以下のような決まりがあります。
- 現地法人・・・取締役(5人)・秘書役や監査役(7人)が必要
- 支店・・・現地居住代理人1人で設立可能
3.会社名決定・予約手続き
次に会社名を決めていきます。会社名を決めるには、同名会社や類似する社名がないかチェックしなければなりません。フィリピンでは低コストで会社名を確保できることから、希望する会社名が付けられないということもあります。
証券取引委員会に会社名を使えるか確認して、OKの場合はその場で会社名を予約することをおすすめします。前もって会社名の候補をいくつか考えておくと、スムーズに手続きができます。
社名が予約されたら「社名確認書」が発行されますので、有効期限内に会社設立手続きを済ませるようにしましょう。
4.登記住所確保のための事務所選び
会社設立に必要な定款には会社の住所を記載しなければなりません。そこで定款を作成する前に事務所を借りる手続きが必要です。フィリピンで会社住所を確保するには次のような方法があります。
①事務所を探して仮契約する
②住所貸しのサービスを利用
③レンタルオフィスを借りる
尚、事務所を借りる際の賃貸契約書は後の銀行口座開設などに必要となるため、あらかじめコピーを取っておきましょう。
5.発起人・株保有割合の決定
現地法人を設立するには「発起人」が必要となり、発起人に関するルールが細かく定められています。
- 発起人は最低5名以上(最大15名)
- 発起人は個人でなければならない(法人は不可)
- 発起人全員が最低1株以上を保有している
- 発起人の過半数がフィリピン国内に在住している
- 会社設立後も上記のルールを満たしている
また会社設立後は「会社秘書役」や「財務役」を決めなければなりません。どちらも取締役との兼務が可能ですが、秘書役はフィリピンに住んでいる現地の人を選ばなければなりません。
国内市場向け企業でネガティブリストに該当する業種の場合、日本人が保有できる株式比率が制限されます。そのためフィリピン人を共同経営者として会社を設立することもありますが、その人に悪意がある場合は会社を乗っ取られてしまうことも。リスクを伴う方法のため、専門家に相談の上で慎重に検討するようにしましょう。
6.定款・必要書類の作成
現地法人を作る際には、証券取引委員会へ会社設立の申請をします。
その申請書類「事業開始申請書」には以下の添付書類が必要になるので、同じタイミングで作成しておきましょう。
- 社名確認書・・・会社名を予約した際に発行される(有効期限90日)
- 基本定款・・・証券取引委員会が準備したフォーマット「エクスプレス・レーン・フォーム」を利用。社名・住所・事業内容・資本金・取締役・発起人・財務役を記載する。
- 付属定款・・・取締役会や株主総会、年度会計に関する規定を示した書類
- 送金(預金)証明書・・・資本金が振り込まれたことを証明する書類
- 登録情報シート
- 財務役宣誓書
- 登記住所を記した書類
7.TITF口座開設・資本金の払込
会社設立前に法人名での口座を開設することは、フィリピンではできません。そこで資本金払込み専用の「TITF口座」を開設して資本金を払い込みます。
口座開設に際しては、必要書類に代表取締役と財務役の署名が必要となります。こちらは銀行の窓口で行います。TITF口座が開設できたら、定款に記載してある資本金を入金します。
8.証券取引委員会への申請
事業開始申請書と添付書類を証券取引委員会へ持参して、会社設立の申請を行います。現地には会社設立担当の弁護士が在籍していますので、提出書類の不備などをチェックしてもらえます。
内容に問題がなければ各種手数料を支払い申請手続きはこれで完了です。受理されれば2週間以内に承認されて、SEC発行の「会社登録証書」が受け取れます。
9.法人口座の開設・資本金を移す
会社を運営していくには法人名義の銀行口座が必要となります。そこでSECから発行された会社登録証書を持参して、財務役が同席のもとで新たに銀行口座を開設しましょう。
口座が開設されたらTITF口座に払込していた資本金を新しく開設した法人口座へ移します。ここでTITF口座は閉鎖することとなります。
10.バランガイ・地方自治体からの許可を得る
11.各種税金に関する手続き
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納税者識別番号(TIN:Taxpayer Identification Number)
2013年からフィリピンの事業者は、TINを取得する義務があります。これは通常SECの会社登録証書の発行と同時に付与されます。 -
納税者登録証明書
税務局で登録申請書に必要事項を記入して、下記の添付書類と共に提出します。これは毎年更新する必要があります。
○バランガイ・クリアランス
○賃貸契約書
○会社登録証書
○会計帳簿
○定款
○付属定款
まとめ
フィリピンで会社を設立するには、まず会社の形態を定めてから会社名を決定し、事務所の場所や発起人を決めていきます。
スムーズに手順を踏んだ場合でも、一か月半から二か月ほどかかるのが通常です。そのため事業計画の考案を含めれば四か月以上前から準備に取り掛かることをおすすめします。
特に会社名の予約には90日という期限があります。そこで期限をオーバーしないようにあらかじめしっかりとしたスケジュールを立てておきましょう。